【育成就労を成功に導く人材戦略】

2024年、外国人材雇用の枠組みは大きな転換点を迎えました。従来の「技能実習」に代わり、新たに創設される育成就労。この制度を単なる名称変更や手続きの変更と捉えていては、これからの人材獲得競争を勝ち抜くことはできません。

多くの解説がビザの手続きや法改正のポイントにとどまる中、私が提唱したいのは人事戦略から逆算する育成就労という考え方です。

   


なぜ「手続き」から入ると失敗するのか

これまでの技能実習制度は、建前としての国際貢献という側面が強く、企業側にとっては「期間限定の労働力」という認識が残りがちでした。一方、育成就労の本質は明確です。
それは特定技能1号水準までの計画的な育成と、その後の定着や永住への道筋を見据えることにあります。

在留資格の取得や更新から発想を始めてしまうと、次のようなリスクが現実化します。

  • 3年間の育成中または終わった途端、より条件の良い他社へ転籍される
  • 特定技能へ移行できても、管理職候補としてのスキルが不足する
  • 現場の評価制度と入管法上の要件がかみ合わず、組織が混乱する

だからこそ必要なのは、5年後、10年後にその外国人材が自社のどのポジションで活躍しているべきかという人事ポートフォリオからの逆算です。

   


育成就労を成功させる3つの視点

育成就労をコストではなく投資に変えるためには、制度を人事戦略と結び付ける設計が欠かせません。特に重要なのが次の3つの視点です。

1. 3年間の育成計画と評価制度の連動

育成就労の3年間は、特定技能1号への準備期間です。
単に作業を教えるのではなく、日本語能力の向上や技能検定の合格を昇給や昇進の明確な基準として人事制度に組み込みましょう。

評価基準が可視化されることで、本人のモチベーションは短期就労ではなく「日本でのキャリア形成」へと向かいます。

   

2. 特定技能以降を見据えたジョブローテーション

育成期間中、同じ現場作業に固定する必要はありません。
将来の現場リーダーや管理人材を見据え、複数工程や簡易的な管理業務を経験させる計画を立てることが重要です。

この経験の積み重ねが、この会社で働き続けたいというエンゲージメントを生み、定着率を大きく左右します。

実務イメージ(食品加工分野)

育成就労【1年目】

基礎固めの期間

まずは一つのラインに配属し、食品加工の基礎を徹底的に身につけます。

  • 単一ラインでの基本作業の習得
  • 衛生管理・安全管理の徹底
  • 日本語教育(現場用語・指示理解)を重視

この時期は作業スピードよりも、正確さ・安全意識・日本の職場文化への理解を優先します。


育成就労【2年目】

応用力を広げる期間

基礎が身についたら、複数ラインを経験させ業務の幅を広げていきます。

  • 複数の食品ライン・工程を経験
  • 品質チェックや記録業務を一部担当
  • 新人への簡単な作業指導を経験

ここでは、自分の作業だけでなく、工程全体を見る視点を養うことが目的です。
将来のリーダー候補としての芽を育てる段階と言えます。


育成就労【3年目】

定着と次ステップへの準備期間

最終年は、特定技能への移行を見据えた実践的な育成を行います。

  • ラインリーダーの補佐役としての業務
  • 工程全体の流れ・課題を理解
  • 特定技能1号試験を意識した技能・知識の強化

管理だけを任せるのではなく、現場作業+補助的な管理業務を組み合わせることが、制度上も実務上も安全な設計です。

3. 報酬体系の再設計

特定技能への移行を前提に、日本人社員との公平性を保ちつつ能力に応じた昇給カーブを可視化することが不可欠です。

これは優秀な人材の流出、いわゆる転籍リスクを防ぐための最も現実的で強力な防御策でもあります。

    


法務と人事をつなぐことが成功の鍵

育成就労制度は、正しく設計すれば人手不足に悩む企業にとって中核人材をゼロから育てるための強力な仕組みになります。

重要なのは、法務手続きだけで完結させないことです。
自社の人事制度とどう連動させ、どのようなキャリアパスを描くのかその設計こそが成否を分けます。

  • 育成就労計画をどう立てれば、特定技能へスムーズに移行できるのか
  • 転籍リスクを最小化する評価制度とは何か


手続きの先にある企業の成長までを見据えた設計をしていくことが育成就労の成功の大切なポイントになります。