【特定技能受入れガイド 第10回「よくある失敗事例とトラブル対処法」 】
はじめに
全10回にわたってお届けしてきたこのシリーズも、いよいよ最終回です。制度の仕組みを学んでも、実際の現場では「こんなことが起きるとは思わなかった」というトラブルが後を絶ちません。この回では、受入れ企業が実際に直面しやすい失敗・トラブルのパターンを7つ取り上げ、それぞれの原因と予防策・対処法をわかりやすく整理します。うちは大丈夫と思っていても、ぜひ一度チェックしてみてください。
❶ 書類・手続きに関する失敗
【失敗①】古い様式で申請して差し戻された
特定技能の申請書類は制度改正のたびに更新されます。インターネット上に古い様式が残っていることも多く、気づかずに旧様式で申請してしまい、窓口で受理されないというケースは非常に多く発生しています。
予防策:書類は必ず申請直前に出入国在留管理庁の公式ホームページから最新版をダウンロードする習慣をつけてください。特に2025年4月以降は支援計画書(第1-17号)については「地域の共生施策への協力」に関する記載欄が新設された新様式が必須となっています。
【失敗②】在留期限ギリギリで書類が間に合わなかった
まだ時間があると思っているうちに、外国人本人の書類収集に想定以上の時間がかかり、在留期限直前に慌てるケースは非常によくあります。在留期限を過ぎてから申請すると、最悪の場合、不法残留扱いになるリスクがあります。
予防策:在留期限の3か月前には書類の準備を開始してください。在留カードの在留期限は必ず社内の人事管理システムに入力し、期限の4か月前にアラートが出るよう設定しておくことをおすすめします。
【失敗③】届出漏れで行政指導を受けた
外国人材が退職したのに雇用契約終了の随時届出を忘れた、支援担当者が変わったのに支援計画変更の届出をしなかった——こうした「うっかり届出漏れ」は中小企業で特に多く見られます。届出義務を怠ると行政指導・罰則の対象になります。
予防策:社内で「変更・終了が生じたら14日以内に届出」というルールを明文化し、周知しておきましょう。担当者が異動・退職した際の引き継ぎ漏れにも注意が必要です。
❷ 外国人材との関係に関するトラブル
【トラブル④】給与の手取り額をめぐるトラブル
「求人票に書いてあった金額と実際に振り込まれた金額が違う」——これは最も多い不満・トラブルのひとつです。日本の税金・社会保険料の仕組みに不慣れな外国人材にとって、各種控除後の手取り額が思ったより大幅に少なくなることは、大きな戸惑いになります。
予防策:雇用条件書には基本給だけでなく、控除後の手取り額の目安まで記載し、事前ガイダンスで「税金・健康保険・年金とは何か」を母国語でわかりやすく説明してください。聞いていた金額と違うという誤解は、入社前の丁寧な説明で大部分が防げます。
【トラブル⑤】突然の退職・転職
特定技能外国人は同一分野内であれば転職の自由があります。ある日突然辞めますと告げられ、採用・教育にかけたコストが無駄になるケースは少なくありません。多くの場合、外国人材は不満を抱えていても直接言い出せずに限界まで我慢し、突然の退職につながります。
予防策:3か月に1回の定期面談を形だけの書類作業にせず、本当に困っていることを話せる場として機能させることが最大の予防策です。面談は母国語対応できる人が行うか、登録支援機関の担当者に同席してもらうことで、本音を引き出しやすくなります。また給与・休日・残業など労働条件の不満は早期に把握し、可能な範囲で改善する姿勢を示すことが定着率向上につながります。
【トラブル⑥】職場内・地域でのコミュニケーショントラブル
日本の職場特有の「空気を読む」「報告・連絡・相談」の文化は、外国人材には馴染みがないことが多くあります。指示が伝わっていないのに伝わっていると思い込んでいたり、問題が起きても上司に言い出せなかったりすることで、ミスや人間関係のトラブルに発展するケースも見られます。
また、社宅・寮での生活において、ゴミの出し方・騒音・駐輪などをめぐって近隣住民とトラブルになるケースも報告されています。悪意があるわけではなく、日本のルールを知らないことが原因のほとんどです。
予防策:入社時の生活オリエンテーションで日本の生活ルールを丁寧に伝えること(第8回参照)、日本人社員に対しても「外国人材との働き方」について事前に研修を行うことが効果的です。「人前で大声で叱らない」「やさしい日本語でわかりやすく、短く指示する」など、日本人側の意識改革も定着率に大きく影響します。
❸ 登録支援機関に関するトラブル
【トラブル⑦】「何もしない」登録支援機関に委託してしまった
登録支援機関と契約後に「担当者から連絡が来ない」「面談をやってくれない」「外国人材からのSOSに対応してもらえない」といった相談は現場で多く聞かれます。月額費用だけ徴収して実態のない支援機関と契約してしまうと、法定の支援義務を果たせず受入れ企業が責任を問われることになります。
予防策:契約前に分野・国籍の支援実績・対応言語・担当者の対応力を必ず確認してください。また、契約書に「支援の実施内容・頻度・報告方法」を具体的に明記することで、後のトラブルを防ぐことができます。
もし問題が生じた場合:登録支援機関との契約を変更・解除することは可能です。ただし、新しい支援機関との契約締結・支援計画の変更届出が必要になります。
❹ トラブルが起きたときの相談先一覧
問題が発生したとき、一人で抱え込まないことが最も大切です。状況に応じて適切な相談先に連絡してください。
| 相談内容 | 相談先 |
|---|---|
| 在留資格・手続きに関すること | 地方出入国在留管理局 / 行政書士 |
| 労働条件・賃金・解雇に関すること | 労働基準監督署 / 都道府県労働局/社会保険労務士 |
| 生活全般・支援に関すること | 登録支援機関 / 外国人在留支援センター(FRESC) |
| 外国人材からのハラスメント相談 | 外国人在留支援センター(FRESC)/ 登録支援機関 |
| 法的トラブル全般 | 弁護士 / 法テラス |
外国人在留支援センター(FRESC)は東京・新宿区 四谷にある出入国在留管理庁の総合支援窓口で、多言語対応の専門相談員が無料で相談に応じています(電話:0570-011000)。遠方の方にも電話・オンラインで対応しています。
シリーズ全体のまとめ
全10回を通じて、特定技能受入れの「はじめの一歩」から「入社後の継続運営」まで、一連の流れをお伝えしてきました。最後に、シリーズ全体を通じて最も伝えたかったことを3点にまとめます。
- 「制度の理解」が最大のリスク回避:書類の不備・届出漏れ・支援義務の未履行は、いずれも知らなかったが原因であることがほとんどです。制度を正しく理解することが、外国人材にとっても企業にとっても最善の結果につながります
- 外国人材は「即戦力の労働者」であると同時に「生活者」でもある:仕事の能力だけでなく、日本での生活を安心して送れるよう支援することが長期的な定着と職場の安定に直結します
- 一人で抱え込まない:書類作成・申請手続き・支援運営のどのフェーズでも、行政書士・登録支援機関・専門機関という心強いパートナーがいます。判断に迷う場面では遠慮なく専門家を頼ってください

